教授からのメッセージ
水分子の様子を反映する目に見えない光を使って病気を診断

どのようにして水に興味をもったのかについてお話しましょう。
まず、私の自己紹介をします。私はブルガリアのルセ工科大学自動制御学科を卒業し、科学者になりたいと思いました。その時から、制御や予測が難しいものとして、生物が持つ仕組みに興味がありました。そこで、センサー開発が私のライフワークになりました。幸いなことに私は、当時、ロシアのモスクワで近赤外分光の分野を研究していた数少ない教授の一人であるニコライ・イバノヴィッチ・キリリン教授のもとで工学博士の資格を取ることができました。そこで私達は、牛乳の近赤外光スペクトルを分析するだけで乳房炎を診断することができるアルゴリズムとセンサーを開発しました。


近赤外光は目に見えませんが、生体組織の奥深くまで届きます。近赤外光は、可視光と赤外光の間に位置する電磁波で、厚さ1mm以上の牛乳、尿、血液のような生体サンプルでも透過します。水は可視光を反射し赤外光のほとんどを吸収してしまいます。しかし、可視光と赤外光の中間の近赤外光は、水の特性を伝える独特な吸収スペクトルを示します。

私が博士論文を出したとき、近赤外光のスペクトルはなぜそんなに多くの情報を持つのかと質問されました。それは、工学研究者にとっては難しい質問で、今でもその答えを探し続けているのです。
その後、私は帯広大学の畜産学部にポスドクとして来日し、乳牛と乳房炎の研究を続けました。そして、北海道大学で農学の博士号も取ることを決心しました。そこで初めて、何頭かの乳牛について全授乳期間に牛1頭ずつの搾乳中のミルクの近赤外スペクトルモニタリングを実施しました。この研究は、生体の非破壊モニタリングを、診断ツールであるとともに病気そのものを理解する手法として活用する新しい分野を拓きました。

1996年に神戸大学に助教授として赴任し、非破壊分析という同じ分野で研究を続けることができました。私達は、2006年に農学部に生体計測工学という新しい研究室を作りました。1996年から、たくさんの研究機関と共同して、水溶液、体液、DNA, 細胞、組織、バクテリア、植物、など種々の生体サンプルに関するリアルタイムでの近赤外スペクトルを解析し、水分子の配列状態の変化が病気や種々の生理的変化と関係があるということが分かりました。
そこで、私達は、“アクアフォトミクス”という新しい“オミクス”分野を提案しました。“アクアフォトミクス”は水と電磁波の相互作用を解析して、ライフサイエンスにおける水の機能性を解明する研究分野です。その中でも非破壊で生体中の水の状態をモニタリングできる近赤外分光法は、サイエンスにおける重要なツールであるということを紹介しています。


私達の目的は、他の分子や環境変化が水の配列にどのような影響を与えるのかを解明することです。そのために、現在、水の吸収バンドのデータベースを構築し、様々な生理状態や病気に関係した“水吸収パターン”について研究しています。将来、様々な病気が同じ“水吸収パターン”の変化を引き起こすということを証明できることが期待されます。