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研究課題

流体の運動,構造物の運動や変形,物質の熱輸送,燃焼現象をはじめとした化学反応,音の伝播などの様々な物理現象は,私たちの日常生活において非常に身近な現象です. これらの現象は,相互に影響を及ぼしながら生じている場合が多く,非常に複雑な問題であるため,シミュレーションを利用し,メカニズムの解明や製品の性能調査などを行うことが学術的・産業的に必要不可欠となっています.
計算流体研究室では,従来的な流体シミュレーションのみならず,複雑かつ複合的な物理現象に対するシミュレーションを行うための数値解析手法の開発やHPC環境向けシミュレーションソフトの開発を行い,それらの成果を学術的・産業的な課題に対して実際に活用することを目指して研究を行っています.
本ページでは,計算流体研究室で行われている様々な研究について,「数値解析手法・HPC環境向けシミュレーションソフトの研究開発」と「学術的・産業的な課題に対する取組み・研究」という大きな分類のもとで紹介します.


数値解析手法・HPC環境向けシミュレーションソフトの研究開発

スーパーコンピューター「富岳」をはじめとしたHPC環境でのシミュレーションを行うために,複雑・複合現象シミュレーションソフトウェア「CUBE」と流体シミュレーションソフトウェア「FrontFlow/red-HPC」の開発を行っています.
また,これらのシミュレーションソフトウェアで用いられる数値解析手法の研究を行っています.

CUBE

流体・構造・熱・音・化学反応などに関する物理現象が相互に影響を及ぼす複雑・複合現象は身近な現象であり,現象のメカニズム解明や製品の性能評価をシミュレーションを用いて行うことが必要不可欠となっています. 従来は,それぞれの現象を扱うためのシミュレーションソフトを組み合わせることによって複雑・複合現象のシミュレーションを行っていましたが,シミュレーションソフト間のデータ交換が必要となるため,個々のシミュレーションソフトの性能や超並列計算機(HPC環境)の性能を十分に発揮できないという問題が存在しています.

本研究室においては,統一的なデータ構造のもとで流体・構造・熱・音・化学反応などの現象を支配する各々の方程式を扱う,複雑・複合現象シミュレーションソフトウェア「CUBE」を理化学研究所 計算科学研究センター(R-CCS)と共同で開発しています.
CUBEの特徴としては,流体・構造・熱・音・化学反応などの複合現象を同時に扱えるだけでなく,格子生成法にBuilding Cube Methodを採用するなどHPC環境において良好な並列性能を得るための様々な工夫がされている点が挙げられます.

CUBE

CUBEで用いられる数値解析手法などに関する研究トピックとしては以下のものなどが挙げられます. 上記の手法に関する研究だけでなく,HPC環境においてより高い並列性能を得るためのチューニングなどに基づくコード開発が進められています.

FrontFlow/red-HPC

工学設計効率化に寄与するCAE環境構築を目的とし,非構造格子・有限体積法のオープンソースCFDコードであるFrontFlow/redをベースに,自動車空力向け・大規模HPC向けの機能・改良を施したFrontFlow/red-HPCを開発しています.

自動車に対する変動風影響を再現するモデルや,移動境界手法を用いた車両運動再現機能,車両運動と空力の連成機能を実装しています.また,京や地球シミュレータを代表とする大規模HPC環境に合わせたチューニングを施しています.

FrontFlow/red-HPC

学術的・産業的な課題に対する取組み・研究

本研究室においては,シミュレーションソフトウェアを開発するだけでなく,実際に利用することで,学術的・産業的課題に関する様々な研究を進めています.

自動車空気力学

多目的最適化・データ科学融合

自動車の車体形状は,空気抵抗や揚力などの様々な性能に大きく影響するため,実験などを用いてより性能の良い形状への最適化が行われていますが,最適形状を調査するための実験に使用する車両の作成には時間的にも費用的にも莫大なコストがかかると言った問題が存在しています. この実験における時間と費用の問題については流体シミュレーションを用いることで解決可能であり,同時に,流体シミュレーションを用いることで,実験では得ることのできないような膨大なデータを得ることも可能となります.

そこで,本研究室では流体計算コード「CUBE」とチェビシェフ距離と選好領域の概念を取り入れた進化アルゴリズム 「CHEETAH」の2つのソフトウェアを用いて,従来まで困難だとされていた3次元形状の大規模な多目的最適化を行っています. 同時に.最適化過程で得られる膨大なシミュレーションのデータを用いて,機械学習・深層学習などのデータ科学手法を融合し,より効率の良い形状最適化フレームワークの構築に関する研究を行っています.

morphingshape_optimization

本研究の目標の1つとして,実際の自動車メーカーなどにおいて開発段階で利用されるフレームワークの構築が挙げられます.

運動連成解析

自動車が走行しているとき,車両には周囲の空気による力が働き,燃費や走行安定性などに影響を受けています. 従来,そういった自動車周りの空気の流れの解析には,風洞試験や試作車を用いた実走行試験が行われてきました. しかし,風洞試験は一様流条件下で実施されるため実際の走行状態とは異なり,また,実走行試験に関しては自動車開発の終盤で行われることから,実験結果を受けてデザインを大きく変更するのは難しいという問題が存在します.
そこで,開発の早期段階から実走行環境下での評価を行うため,より現実の環境に近いシミュレーションを実現することができるようなフレームワークの開発を研究の目的としています.

本研究では,数値流体計算を行うソフトウェア「CUBE」と,車両運動解析を行うオープンソースソフトウェア「Chrono」を使用しています. この2つのソフトウェアを用いて同一スパコン上で双方向に通信を行い,車両速度や空気力などのデータをやり取りすることで,ドライバーの操作によるタイヤ操舵角や車両姿勢の変化を考慮した非定常空力シミュレーションを実現しています.

motion_coupled_analysis

大気外乱や路面凹凸,タイヤ変形などを本フレームワークに組み込んで,より実走行環境に近い条件下での評価を行うことができるようなシミュレーションを実現したいと考えています.

空力音響学

一般的に音の圧力変動は流れに起因する圧力変化に比べ数オーダー小さく,その数値解析にはナビエストークス方程式を高精度で直接解く必要があります.それを実現するスキームの開発と実証に取り組んでいます.

FrontFlow/red-HPC

スポーツ流体力学

スキージャンプ

スキージャンプ競技は,助走(In-run),踏み切り(Take-off),飛行(Flight),着地(Landing)の四つのシーンから構成され,飛行距離と飛行姿勢の美しさで競い合うスポーツです. 競技中,選手の動作に伴い,非定常的な空気による力が作用し,飛行距離に大きく影響するため,この力をうまく利用するような姿勢変化が重要となってきます. しかし,動作の成否は,選手の主観的な感覚や指導者の経験で判断されることも多く,科学的な評価が不十分であることが問題とされています.
本研究室では,北翔大学と共同でスキージャンプの数値シミュレーション研究を行っています.実際のジャンパーの試技から取得した詳細な競技動作データをもとに「CUBE」を用いて,選手の一連の動作とその周りの空気の流れについてシミュレーションを行っています.

ski jumping

現在,特に以下の課題に対して精力的に研究を進めています.

また,より現実に近い高精度なシミュレーションを行い,空気力学的な観点から成績向上に貢献することを目標に研究を進めています.

ゴルフボール

ゴルフは飛距離を稼ぐことが重要なスポーツであり,ディンプルと呼ばれる凹凸形状がゴルフボールの空力特性において重要な役割を果たしていることが知られています. そのため,風洞実験などによる様々な研究が行われていますが,実験によってはディンプル周りの詳細な流れ場を捉えることは難しいとされており,ディンプル周りの流れ構造を捉え,複雑な流体力学的メカニズムの解明のためには流体シミュレーションを行うことが必要不可欠という背景があります.

本研究室では,ゴルフボール表面近傍の流れを詳細かつ高精度に再現するため,境界適合格子(非構造格子)を用いる「FrontFlow/red-HPC」を利用したシミュレーションを行っています. また,空気中を飛翔するゴルフボールの運動(並進・回転)の様子を再現するために,Arbitrary Lagrangian Eulerian法を利用し,ゴルフボールを含む解析格子全体を並進・回転させた上でのシミュレーションを行い,実際の飛翔中のボール周りの流れを再現しています.

golf ball

本研究の目的の1つとしては,流体シミュレーションを行うことで実験だけでは分からなかった流体現象のメカニズム解明が挙げられます.

水泳

競泳競技とは,水泳競技の中でも泳ぐ速さを競う競技,つまり,ゴールまでに要するコンマ1秒の差を競う競技であるため,動作の最適化を行うことが成績の向上に繋がります. 動作の最適化を行うためのデータを取得する際に,水中で姿勢を変化させながら推進する泳者周りの非定常的な流体力や流れの様子を実験で測定することは困難であるという問題が存在しています.
そこで,本研究室では,水泳選手の協力のもと,3次元計測システムによって選手の身体形状(体型)データ,水中ビデオカメラによって泳動作時の選手の身体の関節の座標を得た上でシミュレーションに用いる形状・動作モデルを作成し,「CUBE」を用いて泳動作中の選手の周りの水の流れについてシミュレーションを行っています.

swim

競泳において一般的に良いとされているような泳動作の基本的事項が流体力学の観点から見て妥当かどうかということの検証や,選手個人の身体形状の特徴と種目を考慮した上での理想の泳動作への指針を与える事に貢献することを目標に研究を進めています.

バイオ・生体シミュレーション

ウイルス感染拡大防止に向けたシミュレーション

新型コロナウイルス(COVID-19)をはじめとしたウイルスによる感染症の感染経路の一つに飛沫感染が挙げられます. ウイルス飛沫の拡散の様子を目視することはできないため,保菌者が周囲の人に菌を拡散させる可能性もあり適切な対策が必要です. また,粒径が5μm以下の飛沫であるエアロゾルについては,より長距離・長時間空気中を浮遊するため,粒径の大きな飛沫と区別して対策を行う必要があります.
飛沫感染の対策を行うためには,飛沫とエアロゾルの拡散の過程を正しく予測し空気の流れが感染に与える影響を推定することが求められます. 本研究室では飛沫とエアロゾルに対して、数値流体力学を利用したシミュレーションを行っています.
シミュレーションによって得られた結果を分析するだけでなく,その結果をもとに,飛沫感染によるリスクを減少させるための対策案についても検討を行っています.

飛沫拡散の様子 室内換気の様子

植物に関連する流体現象

テンナンショウ属という特異な形状を持った植物に対して,この特異な形状が植物の放つ匂いの広がりに対して与える影響を調べています.

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