音響学講義ノート No.10
楽器の音響学(その2)
★弦楽器
- 弦楽器の構造:どの弦楽器でも弦を何らかの形で振動させ,その振動を胴(表板,裏板,ピアノの場合は響板)に伝えて,音波として放射させる.弦は断面積が小さく,空気を振動させる(圧力の変化を生じさせる)ほどの力はないので,弦そのものからはほとんど音は発生しない.(前述「振動は全て音になるか?」および「音のなんでも小事典」:pp.26〜28参照.)したがって,弦楽器には必ず胴のように音を放射する要素が必要になる.胴は,楽器の音色を決定する上で重要な役割を持っている.また,弦の振動を胴に伝えるには,楽器によっていろいろな工夫がされている.(バイオリンの「魂柱」など.)
- 弦楽器の種類:撥弦楽器(弦をはじくもの),擦弦楽器(弦をこするもの),打弦楽器(弦をたたくもの)
- 弦楽器の音色を決定する要因:楽器の固有の差を除けば,弦楽器の音色は以下の演奏上の差異によって変化する.なお,ピアノについてはいわゆるタッチの問題があるが,これは近年ではハンマーの振動など,打弦のメカニズムにおける様々な要因が関係することが明らかになりつつある.
- アタック法:弦をどのようにして振動させるか.弦をこするか,はじくか.はじく場合にも,鋭い爪やピックを使うか,指ではじくかによって,同じ楽器でも発生する倍音が異なるため,音色に違いが生じる.また,音の立ち上がりにも変化が生じる.
- アタック点:弦のどの部分を加振(こする,あるいははじく)かによって,発生する倍音が相当異なるため,音色が異なる.擦弦楽器の場合には,作曲者が指定する場合もある.
★管楽器
- 管楽器の構造:木管楽器でも金管楽器でも,円筒管あるいは円錐管である.管の中の空気を振動させて共鳴を起こし,音を発する.その方法は,リードを使うもの(シングル,あるいはダブルリード),リードを使わないもの(エア・リード),唇を使うもの(リップ・リード=金管楽器)の3種類.
- 音階の作り方:木管楽器では,指孔を利用して,音響的に管の長さを変化させる.金管楽器ではこの方法が採れないので,実質的に管の長さを変える.その方法は,トロンボーンのようにスライドを用いるものと,トランペットやホルンのように迂回管(途中に短い管を挿入して切り替えることにより,全体の長さを変える.)を用いるものがある.
- 管楽器の音色:管の形状やリード構造によって,楽器の種類ごとに固有の特性が決まる.例えば,クラリネットは閉管の特徴をもつが,同じシングルリードでもサキソホンは円錐管なので倍音構造に違いがある.楽器の材質については,差異があることは知られているが,その影響については詳しいことは分かっていない.
★打楽器
- 打楽器の種類:はっきりした音程感を持つものと,持たないものに大別できる.はっきりした音程感を持つものは,倍音構造が他の楽器のように規則的である.また,振動体の種類によっても分類できる(膜=ドラム類,ティンパニ.板=シンバル,ゴングなど.棒=シロフォンの類,トライアングルなど.)
【参考書】
安藤由典:「楽器の音色を探る」(中公新書)
吉川茂:「ピアノの音色はタッチで変わるか−楽器の中の物理学」(日経サイエンス社)
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