コラム

「ポストコロナ」のイノベーション⑤: 感染者ゲートチェックにどのような付加価値が必要か

2020年5月26日(火)

社会課題1-1.人同士の接触が前提だった場所の変革とは?(1. 人同士の接触を減らしながらビジネスを成立させること)
社会課題3-2. DX(デジタル・トランスフォーメーション)の新しい姿とは?(3. ITの新たな活用方法を提示すること)


休業要請緩和のロードマップ

東京都は5月22日に休業要請緩和の「ロードマップ」を発表しました。*1)ロードマップとは、外出自粛と休業要請を4段階で緩和する工程表です。自粛期間が「ステップ0」で、その後ステップ1からステップ3まで緩和されるのが理想形ですが、感染第二波が起きた場合は、厳しいステップに戻ることもあり得ます。

ただ、どのような基準で緩いステップに移行するのか、逆に厳しいステップに戻るのか、実はロードマップを読んでも、はっきりとしません。

「『感染(疫学的)状況』の指標が全て緩和の目安を下回った場合、その他の指標も勘案しながら、・・・総合的に判断する」と書かれています。緩和するかどうか判断する数値基準はあるが、裁量の余地が大きく、どうなるのかよく分からない。しかし、「民は由らしむべし、知らしむべからず」と適当に政治判断するのではないことは伝わってきます。

(以下、7月4日筆者加筆)しかし、6月以降に感染者が再増加しても、都から自粛は発令されていません。数値基準は全く有名無実で、「東京アラート」は単にレインボーブリッジを赤く染めることが目的だったという批判はあたっています。

施設がオープンになるための判断基準

緩和・自粛再要請の対象は、文化施設、飲食店、イベントの3種類です。いずれも「三密」ができやすい環境ですが、どういうケースでオープンにできるか判断基準が定められています。

① 文化的・健康的な生活のための施設の必要性(エンタメより美術館・図書館など文化施設の方がオープンすることが認められやすい)
② 飲食店の営業時間(深夜営業はハードルが高い)
③ クラスター発生歴があるか
④ イベントの参加人数(大規模イベントはハードルが高い)

人が集まるすべての施設で入場管理が必要になる

人が集まる施設には、入場にチケットが必要な有料施設と、無料施設がありますが、有料施設では従来から入場管理が必要でした。ただ、今後は有料施設だけでなく無料施設でも感染防止のため入場管理が求められます。現状では熱がないかを確認するのに、入場者の額にヘアドライヤー型の検温器を近づけることが主流です。ただ、非接触型の検温器といっても顔に接近しなければならないし、測定するスタッフは不特定多数のお客さんと対面しなければなりません。労務管理上これは避けたい。

体温測定以外の付加価値を考える

データスコープが提供するソリューション(出典 データスコープ・ホームページ)

そこで、人手を介さず固定したカメラなどのセンサーで来場者を検温するニーズがありますが、設備投資負担が大きいと普及しません。一台一万円以下のハンディ検温器に需要が流れるで、価格の安さ以外の付加価値を考えなければなりません。体温測定以外に顔認証などの用途を組み合わせるのです。

例えば、施設入場した人をカメラで記録しておけば、後日その施設が感染クラスターになっても、感染の疑いがある人を追跡できます。また、顔認証機能があれば、事前にチケット購入したかを非接触で確認できます。

株式会社データスコープ*2)は、カメラによる顔認証とAIを組み合わせたシステムで様々な価値を提供しています。画像処理技術とディープラーニングを組み合わせれば、来店客の属性、人の導線などを分析できます。例えば、来店客確認(店内の来店者数を常に表示し、制限するシステムの提供も含む)、万引防止、不審者対策、ビルセキュリティ管理などが可能です。

また、画像処理による本人確認を使えば、顔認証による代金決済に発展します。データスコープは、元々得意だった顔認証システムにサーモセンサーを追加し、本人確認、代金決済、体温測定を同時可能にしました。ヘアドライヤー型と逆パターンの付加価値と言えます。

同社の神野浩司氏によると、共同で事業を希望する企業には新しいサービスを提供するので、ユニークな協業に発展する可能性があります。「屋内で人が集まる施設とは、どことでも手を組みたい」と同社は考えています。

「ポストコロナ」の社会課題:
http://www.lab.kobe-u.ac.jp/stin-innovation-leader/column/200430.html

1. 人同士の接触を減らしながらビジネスを成立させること
1-1. 人同士の接触が前提だった場所の変革とは?
1-2. 今までと違う「接触方法」とは?
1-3. オフイス、飲食店、スーパー、スポーツ、エンタメ以外に課題を抱える場所とは?

2. リアルな現場における人手不足を賄うこと
2-1. 医療、介護、工場、物流、店舗以外に問題が起きている現場とは?
2-2. 専門家、管理者、単純労働者など不足する人材の質に合わせた対応とは?
2-3. IT化やロボット活用以外に考えられる解決方法とは?

3. ITの新たな活用方法を提示すること
3-1. テレワークを実施するうえで起きる新たな課題とは?
3-2. DX(デジタル・トランスフォーメーション)の新しい姿とは?
3-3. ITが解決するべき今まで見えなかった課題とは?

4. ビジネスの新たなパラダイムを作ること
4-1. 新たな生活、仕事の目的とは?
4-2. 従来と異なるコミュニケーションとは?
4-3. 人々が持つべき新たなマインドセットとは?
4-4. 新しい家庭、病院、オフィス、店舗、物流、工場etc.の形とは?


(*1)東京都「新型コロナウイルス感染症を 乗り越えるためのロードマップ」:
https://www.bousai.metro.tokyo.lg.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/007/966/25/rodon.pdf

(*2)株式会社データスコープHP:
https://www.datascope.co.jp

  • 尾崎 弘之
    (プログラム運営責任者)

    神戸大学科学技術イノベーション研究科教授、経営学研究科教授、プログラム運営責任者