研究概要
当研究室で行われている研究は,音源から受音点にいたるまでの物理的な現象に関する研究と,耳入力信号に対して知覚される心理的な現象に関する研究の,2つに大別できる.
A. 音場の理論解析・音響材料関連
- 1.音響材料の音響特性に関する研究
- 室内・室外を問わず,境界面の音響特性は音響設計の際の最も基礎的な量であり,これを明らかにすることが必要である.コンサートホールなど室内音場の場合にも,音響反射板をはじめ,壁,床および天井などは室内音場を形成する境界面として,その音響特性を知る必要がある.その場合,従来はこれら境界面は音波の入射によって振動しないものとして扱われてきたが,実際には境界面の振動による影響を受ける.
当研究室では,音波の入射による振動を考慮して,弾性板や膜の音響特性を理論的に解析し,板及び膜状音響材料の音響特性に音波入射による振動がおよぼす影響を明らかにしてきた.特に,建築室内の境界面のように複雑な構造を持つものまで,幅広く研究を行っている.
- 2.固体音の伝搬特性に関する研究
- 当研究室では,建築躯体など構造物の振動に起因する騒音の発生機構と伝搬について,モデルに基づく解析的手法によって研究を進めている.特に,高速道路などの高架構造物から発生する高架構造物音と呼ばれる放射音については,その発生機構の解明に取り組んでおり,高架構造物の鋼桁がその主因であることを明らかにしている.また,集合住宅や2世帯住宅において問題となる床衝撃音については,これまで現場での実験が中心であったが,当研究室は単純なモデル化による理論解析による研究を始めている.
B. 室内音響の主観評価・心理音響関連
- 1.公共空間の音環境に関する研究
- 音環境の問題というと,コンサートホールや会議室の音響効果や道路騒音の問題などがすぐに連想される.実際これまでの研究でも,それらの問題に重点が置かれてきたのであるが,我々が日常利用する公共空間,例えば鉄道駅や空港ターミナル,あるいは地下街や商店街,大規模商店などの音環境問題も軽んじられてはならない.公共空間では,不特定多数の人が集まり利用する性質上,環境としての快適性の面からはもちろん,非常時の放送や案内・警告音などの必要な情報が有効に機能するためにも,これら公共空間の騒音問題は重要である.また,この問題はそのまま空間の安全性にもつながるものである.
当研究室では,音環境の実測調査(鉄道駅,空港,地下街),「聴き取りにくさ」を主観的評価指標として用いた音声伝送性能の評価,視覚障がい者の移動支援を目的とした誘導鈴の最適化,防災無線の音声伝送性能の評価など,幅広く研究を進めている.
- 2.スピーチプライバシに関する研究
- 近年日本では,個人情報保護の需要の高まりもあり,病院の診察室,銀行,薬局,会議室などにおいて,会話による情報の漏洩が問題視されつつある。北米では,スピーチプライバシという用語でこの問題を表し,古くから研究が進められてきた。スピーチプライバシの問題には,隣室から漏れてくる会話音による作業妨害と,隣室に会話音が漏れることによる情報漏洩の2つがあるといわれている.
当研究室では,後者の問題に着目し,遮音性能や暗騒音レベル,吸音特性などの室内音響設計において制御可能なパラメータから情報漏洩の程度を推定する方法について研究している.また,会話音をマスキングするために,別途騒音を付加するサウンドマスキングシステムについても研究を始めている.
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