小論文講評
対象論文「多様性と連続性のある住宅地のファサードに関する研究
                       〜斜面地住宅 苦楽園プロジェクト1期を例として〜」
発表者 宮武慎一
講評者 1岡田峻 2森田大輔


宮武君の研究は兵庫県西宮市苦楽園の住宅地を対象として、斜面地における戸建て住宅のファサードが5つの構成要素をもつと仮定し、魅力的な街並みをつくりだしている物的構造を明らかにしようとするものである。

まず5つの分析視点それぞれについての分析が浅かった。「抜け」の項目であれば視線の抜けや隣棟間隔の抜けがあると言うだけでなく、それぞれの表面積がいくらとか何メートルの抜けがあるなど具体的な数値によるデータがあればより説得力があったのではないだろうか。
また、5つの要素がそれぞれ個別に扱われていたがその要素がどのように重なって連続性がつくられているのかまで考察して欲しかった。

そしてこのプロジェクトの特徴であるデザインコードを設けないことに着目するならば、どこが建築家同士によって調整された点なのか、多様な素材が使われていながら色彩は似たようなものが使われているがそれは建築家によって決められたものなのかなど、それらを分析で考慮すればより深い考察ができたのではないだろうか。

最後に、対象となる住宅地に多様性があると仮定する点が疑問に思われた。素材や形態の視点からの分析で、その違いはあると分かるがそれが多様性とは言えず、個性として捉えられるべきだっただろう。
また、発展として他の斜面地の住宅との比較や、建築家以外の人の計画による住宅地もみてみたい。
(評者/岡田峻)


本研究は、画一的で単調な日本の住宅地の景観に対して、改善の道標となるような視点を研究したものである。いかに多様性を保ちつつ連続した建築を創造することができるかについての要素を快適な街路の立面構成を分析することで、発見することを目的としている。

1章では、研究背景・目的、研究対象、研究方法が述べられている。敷地は兵庫県西宮市苦楽園五番町で苦楽園プロジェクト1期完成の4住宅を対象としている。これらは、4人の建築家、岸和郎、元倉眞琴、木村博昭、竹山聖によって自由に設計されている。研究方法としては、連続立面図から、通りの多様性、連続性を構成する要因を、抜け空間・視線ラインによる空間の広がり、ヴォリューム、形態、素材、色の5つであると仮定し、分析・考察を行うものである。

2章では、敷地概要、苦楽園プロジェクトの成立背景とその課程、全体配置、各住戸のプランが述べられている。遠藤剛生氏がマスターアーキテクトとして調整しながら、進められた。

3章では、街路側の連続立面図をもとに上記の5つの視点から分析されている。
・ 抜け………4つの住宅すべてがGLレベルではカーポートとして利用されており、このことが連続性を絶ちきらない大きな空間の抜けを実現し、通りからの空間に広がりを持たせ、快適さの要因となっている。
・ ヴォリューム………全体を通して、背景の山々の緑の中で1層少なさが強調されている。
・ 形態………すべての住宅が幾何学的な形態で直線による構成をとっているが、建築形態自体は、非常に多様であり、斬新で楽しい空間を演出している。
・ 素材………素材に関する取り決めはないが、似たような建築感を持った建築家たちが集まったことにより、突飛な素材が利用されることもない。
・ 色………色に関する取り決めはないが、白を基とし、無彩色とアースカラーによる構成。背景の山々の緑が、白をより美しく見せ、建築を連続的に引き立たせている。
各項目に対し、以上のような結論を得ている。

4章では、考察が述べられている。内容は分析とほとんど同じ。

5章では、全体のまとめとしての結論が述べられている。住宅は多様なライフスタイルに適応するため、多様なものである必要があるとしている。上記の5つの仮定を分析したことによって多様な建築が、うまく連続し、リズムを奏でる快適因子を発見することができたとしている。

・感想     
私がこの論文を読んで気になったところは、多様性と連続性という言葉についてです。どのような点において多様なのか、(例えば、壁や屋根など)という視点が必要だったのではないかと思います。何故なら、単に住宅においてということになると、どの住宅においてもコンクリートやガラス、鉄を使っているからです。むしろ、似た素材を使い、それぞれが個性を出しているように見えます。
次に、連続性について抜け空間・視線ラインによる空間の広がり・ヴォリューム・形態・素材・色について分析を行い、考察をすることは、様々な共通点や発見があり、おもしろく感じられました。しかし、少し主観的な表現があったような気がします。客観的に表現するためにも、他の住宅地と、上記のような視点で比較してみてもおもしろかったのではないかと思いました。
最後に5章の結論の冒頭で『現在のライフスタイルに適応するためにも住宅は多様である必要がある』としていますが、本研究は、ファサードに関する研究と言い切っているので、急にライフスタイルを引き合いに出すのは、不自然なのではと感じました。

・全体を通して
私にとって小論発表という場は初めてだったので、どんなものかと期待していましたが、皆よく頑張っていたと思います。
(評者/森田大輔)