小論文講評
対象論文「住まい手の自主的な増改築により形成される集合住宅のファサードに関する研究
                      〜大阪市営下寺住宅を事例として〜」
発表者 吉村聡
講評者 1安藤絵里子 2橋本大


■研究内容
現在の都市における住宅地を構成する要素の一つである集合住宅のファサードに着目し、都市景観を豊かなものにする要因について考察した研究である。研究対象である大阪市営下寺住宅2号棟のファサードを実測寸法にしたがって図面化し、それを基に住人による増改築によって生み出された建築的要素を分類し分析することで各住戸の多様な外観の集合体の中にある連続性、もしくは統一感を生じさせるものは何かということを明らかにする。本論は、序論を含む5部構成。

■どのような価値や意義があるか
研究対象のファサード構成要素の指標として
・建築部
・素材
・開口部
・あふれ出し物
を抽出し、それらの各指標に対し水平方向・垂直方向へのつながりにおいて図面とともに具体的な考察がなされている。単体で分析するだけでなく、全体を見る視点から連続性・統一感を生み出す要因を明らかにしている。

■講評
しっかりと構成要素の指標を設定し、下寺住宅のファサードを全体的に見ることで分析・考察を進めているので非常に理解しやすい論文である。下寺住宅の歴史的背景をきちんと整理しどのようにして現在の姿に至ったかということも抑えられている。
繰り返される増改築から生じるもの、それはつまり住人による生活そのものが、物理的要素として露呈しているということである。本研究ではなされていないが、集合住宅という各住人の暮らしにつながりをもたすものに対して、生活環境の変化が住人に及ぼす影響などがどのように平面的・立面的に現れてくるのか、空間的見地から探るのもおもしろいと思う。
(評者/橋本 大)