小論文講評
対象論文「住民参加によって計画された住宅における住み手の交代後の住居空間の使われ方
                              〜コモンビレッジ移瀬の事例〜」
発表者 粟野瞳
講評者 1小笠原友里 2山下卓洋 3兼ふみ代


■どのような研究か
 戦後の大量生産大量消費の時代につくられた画一的な住宅地、団地のいわゆる標準設計と言われるものは、無個性、敷地や周辺環境と呼応していない、家族形態がある程度決められてしまっているといった問題を抱えている。その解答の一つとして「住民参加」という方法を用いた、特定の居住者のためにつくられた住宅は、住み手が交代した場合、次の住み手がどのようにそこを活用し、使われているのかということに視点をおいた研究である。研究対象はいるか設計集団の設計による「コモンビレッジ移瀬」である。内容は、序論と第1〜3章の4部構成でまとめられている。

■なにが得られていたか
 兵庫県川西市にある「コモンビレッジ移瀬」は、共有庭を囲むように6つの住宅が建っている。1989年に完成して以来、6戸のうち5戸の世帯が1〜2度住み代わっている。その際、設計時に最初の住み手がオーダ−した住居の特徴的な部分(大デッキ、玄関先のサロン、勝手口、サンルーム、ジャグジー風呂、アトリエなど)が次の住み手にどのように活用されているのかという点を中心に調査している。その結果として、丸い家のアティックや大デッキのある家の居間のキッチンのように計画時と同じ目的で使われているものや、パーティーの場所の大デッキ→犬のためのスペース、ジャグジー風呂→子どもの水浴び場といった使用目的が変化して有効に使われているものが見られた。住み手が代わった後も、別の用途であっても十分活用されていることがわかった。中には物置になっているという悲しいものもあったが・・。また、新しい住み手による改変も見られた。これは、老朽化による改変(主にデッキ)と、住み手の要望による改変がある。前者はやむを得ず行った改変であるが、新しいものは形を変えたり、ベンチを付けたりして自分達の希望を反映させている。後者は、住み手のライフスタイルに合わせた増築や改築であり、より使いやすく愛着のある空間となっている。

■どのような価値や意義があるか
 住民参加による住宅は、住み手のオーダーメイドであり転用性に欠けるという認識をされていることが多い。住民参加によって特定の個人向けにつくられた住宅が、住み手が代わった後も受け入れられるのか、後の住み手は気持ちよく住めるのか、特別な部分がどのように活用されるのか、その用途は同じなのか異なるのか、ということは、とても興味深い事実である。住民参加で建てられた住宅に、後から入った場合、どうしても「他人のあつらえのものに住んでいる」という気持ちがあるだろうと思われる。入居者は、その特別な特徴を好み、選んで住んでいるのであるが、それに自分なりに改変するという作業を加えることによって、愛着を持たせることにつながっている。

■最後に
 今回、普通は外観や計画時のプランでしか見ることのできない個人の住宅の、人の住み代わり、現在の部屋の使われ方、改変の様子などがわかり、とてもおもしろかった。アドバイスをするとすれば、先に住んでいた人、あとに住む人の具体的な家族構成(年齢・職業など)が、(聞ける範囲で)分かれば、それぞれを比較したりすることができ、読む側としてイメージがつかみやすかったのではないかと感じた。「夫婦、長男」などといった表記では、具体性に欠けていた。住み代わった時期、改変した時期(新しい入居者が入る前なのか直後なのか何年後かなのか)、改変の理由、6つの住宅をひとつの時間軸においてグラフやプランを含めた表で表せば分かりやすかったのではないか。それぞれの住居を全く独立して考えてしまうのではなく、6つの住居群であるという切り口がもう少しほしかったと感じた。「コモンビレッジ移瀬」は、完成してからまだ13年であり、これからは異なる人との住み代えによる改変だけでなく、同じ人が住みつづけるにおいても、老朽化や、住む人の世代の変化(家族の増減、年をとってバリアフリーにするなど)や、その他必要に迫られた改変が行われるであろうと思われる。これから、長いスパンで観察、調査していくと面白いのではないかと思う。
(評者/小笠原友里)


本研究では、まず、戦後、大量に建設された建て売り住宅に着目し、そのほとんどが画一的である住宅としていくつか問題点を挙げている。
そこで、そのような問題点を踏まえ、コーポラティブハウス等、計画に住民が参加した住居つくりに着目することになる。しかし、特定の住み手の個性的な住居が、住み手が変わることで次の住み手にとって使いづらく、不便となるのではないかと考えることに至り、これが研究テーマとなっている。

研究対象として「コモンビレッジ移瀬」(いるか設計集団設計 1988)調査している。そのうちの調査対象となったものが、「大きなデッキのある家」・「丸い家」・「三角のサンルームのある家」・「ジャグジーのある家」・「焼き物工房のある家」である。

この研究において興味深かったものとして、考察にもあるが、住み手が変化しても、計画当初にある施主の提案箇所が、大きな変化もなくその住み手に合うように工夫され有効的に使われていることである。これを、研究者は「施主が計画に参加することによってできた特別な空間は住居に個性を与え、入居者がその住居を好む一因となっている」としており、なる程と思う。後は、転居者がどの様に「コモンビレッジ移瀬」の存在を知ったのだろうか。分かっているだけでも「大きなデッキのある家」が最大で5ヶ月間しか空いていないからだ。この点を詰めていればもっと良かったと思う。もしかして、「コモンビレッジ移瀬」がこの地域においてランドマークとなっていたのだろうか。

また、どの家においても変更を加えた共通項として外構部造園が挙げられ、他者への配慮といったことがみられる。これは、計画当初からある外観デザインの統一ということからきているのだろうか。

最後に、隣の家の顔が分からないとされている現在の集住問題とされている中で、「コモンビレッジ移瀬」は重要な要素を含んでいる集合住宅ではないだろうか。そのような観点から今後、注目してゆきたい。
(評者/山下卓洋)


◇ どのような研究か
建売り住宅が建てられる際、多くの場合住み手の顔が見えない状況で設計されるため住居構成が画一的になりがちである。粟野さんはここで「@住居が無個性、無表情なものになりがちA個々の敷地の周辺環境、特性と呼応した住居にならないB斜面地において住宅地を開発する際、雛壇造成の手法がとられるC家族形態が多様化しており世帯ごとの生活様式があるにも関わらず、それに合う住居の選択肢がないD個々の単位住居が孤立し、近隣関係をつくりにくい」という問題があると考えた。これに対して、設計に住民が参加した、特定の住み手のための住居は住み手が交代する際次の住み手が使いにくいのではないかという考え方もある。と述べた上で、住民参加によって設計された川西市のコモンビレッジ移瀬では、なんらかの理由で住民が転出した後すぐに新たな住人が入居している状況であることから、全6戸の住居でのヒアリング調査と住居内外の観察調査とに基づき、個性ある住居は特定の住民のみに適応するものではなく、施主以外の住み手にとっても快適に住まわれていることを明らかにしようとする研究です。
住み手交代のあった5戸で、現在の住居の使用状況・増改築・修復の行われた場所が平面図に示され、家族構成の変化、住居内で家族の部屋わけと、家族の成長による使い方の移り変わりが調査されました。
◇ 何が得られたか
最初の住み手の提案した特徴のある空間が別の住み手によってどのように使用されているかの変化を表に示すことによって、使用目的に変化なく使われている住居では、その空間が最初の住み手だけでなくべつの住み手においても魅力のある空間として選ばれたことが明らかになり、使用目的に変化があった住居においては特徴のある空間が、別の住み手によって新しい使用目的が見出され有効に利用されていることが明らかになった。いずれの場合も、最初の住み手が計画に参加することによってできた空間は住居に個性を与え、入居者がその住居を好む一因となっていることがわかった。また改変された例えばデッキテラスは(当初耐久性のある木材を使うことが予算的に難しかったという理由があり)5戸で修復がなされているが、その際住み手自身がベンチをつけたりプランター入れを備え付けたり形をかえたり手をかけたことで、さらに愛着が生まれたことを明らかにした。
◇ どのような価値や意義があるか
現在様々な住宅地で無数に建てられる建売住宅は、あらゆる世帯に対応させるという目的のために逆に個室数の違いによって区別するというような画一的なものになっている現状において、本研究はある特定の住民の参加によって計画された個性をもった住居が、別の住民に対しても空間が住み手の個性を誘発している、そして住宅に多様性を与え、選択肢を増やしていることを明らかにした。
また、本研究はコーポラティブハウジングや集合住宅のプランにおける豊かな住空間づくりにも応用できると思われる。
以上の理由により、生活環境計画の分野において価値がある。
◇ 感想
家族の成長にともなう住み方の変化の調査はとてもおもしろいと思いました。この部分についてさらに考察されるとよいのではないでしょうか。また、住み手が移り変わっても6戸の住民のあいだで共有部分の使い方などなにか約束事やルールがあるのか、そして新しい住み手が入居する際前の住み手と接触し引き継いでいるものがあるのか、あれば知りたいと思いました。
(評者/兼ふみ代)

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