小論文講評
対象論文「学校公園をもつ小学校における境界性」
発表者 藤井正嗣
講評者 1小畦雅史 2伊藤昭裕


本研究は、小学校における学校施設・運動場の地域開放・学校施設の複合化の進展に伴う、敷地境界の変化への筆者の興味から、敷地境界のあり方について調査・分析を行い、今後の小学校境界計画に関する知見を得ることを目的としている。

本論文は4章で構成されている。

第1章では研究の目的と背景、研究の方法が述べられている。現在、学校施設の地域解放、地域施設との複合化の事例は益々増えている。筆者は学校施設の地域解放・複合化の利点を支持した上で、学校敷地の境界に着目し、「敷地境界計画における傾向の歴史的変化と神戸市における現状の境界構成」「常時開放を行っている、公園と複合化された小学校の境界の実態」を知り、今後の境界のあり方に関する知見を得ることを目的としている。研究方法としては、@文献・資料調査から分類・考察し、戦後の流れと現状を把握A対象校における児童・地域住民の行動観察調査を行い分析・考察し、精神的な境界に関する知見を得る、という方法をとっている。

第2章では文献・資料調査による結果、考察が示されている。この調査では、学校が開放されるようになってから序々に開放的な境界構成の学校が増えており、境界は心理的なものになりつつあること、神戸市は開放が進展していないことが指摘されている。また、心理的な境界を構成する要素を○列柱などの象徴 ○簡単なチェーンなどちょっとした障害 ○植栽などテクスチャーの違い ○人の監視 としている。

第3章では調査対象校として公園と複合化された小学校を選び、地域住民と児童の行動領域の境界に着目しつつ観察し、分析を行い、考察している。その結果、○グラウンドはある一定の時間ごとに公園→グランド→公園というように機能を変化させている ○遊具・鳥小屋・ビオトープは昼間、幼児のための公園機能をなしておりこのことにより、うまく使い分けが成り立っている ○子供連れではない場合は公園の南側を使用しており、グラウンドとの境界はテクスチャーの違い、植栽、防球ネット、学校の監視、意識により成り立っている という結論を得ている。

第4章では全体のまとめとして、現在の小学校の境界は心理的的なものが増えており、シンボルによる境界、地面のレベル差による境界、仕上げの違いによる境界といったものになっている。また、利用者の目的により成り立つ境界もあるとしている。

本研究は学校を地域の中の重要な公共施設であると位置づけ、地域施設であるが故に常に問題となる境界のあり方について、資料による調査と観察調査により明らかとしたものであり、今後の小学校敷地の境界の作り方に関して鳥かご式ではない境界の可能性を示した。以上において生活環境計画分野の研究として価値がある

感想…この論文はテーマは非常におもしろいものだと感じた。しかし、藤井が本当に知りたいと思っているのは、物理的に完全に遮断しない境界のあり方とはどういうものかと言うことであったと思う。その答えに迫るには、少し調査の構想段階で考え切れていないのではないかと思う。まず、本当に地域住民と学校児童の行動領域の棲み分けを知るには、一日中の時間の流れの中で、滞留する行為と、通過する行為、その他の行為を10分刻みぐらいで平面図上にプロットし、行為者を児童と地域住民に色分けし重ね合わせてみるとよくわかったのではないかと思う。調査時間に穴が多く、大きすぎると本当にどういう領域で人が動いているのかはわからないと思う。もっと僕たちを使って大人数で調査してもよかったかなと思う。さらに、その目的別に分類する。その目的によって人が行く場所が違うというのはなかば当たり前のことで、これは、平面的な機能の配置上の問題だろうと思う。その機能をむしろ境界であると、計画者側が認識して積極的に使おうというのは、僕には新鮮に思えて良かったと思う。
(評者/小畦雅史)


第1章では研究の目的と背景について述べられている。筆者は放課後の小学校のグラウンドで、小学生以外にも多くの大人や子供がいきいきと遊んでいる姿を見て、グラウンドの常時開放の現状と、周辺に住む人々にとっての重要性に関心を持っている。

研究は大きく2つに分類でき、まず、教育基本法が施行されて以後の1948年から、新建築に掲載された小学校の「校門」「グラウンドと外部との境界」「校舎付近と外部の境界」の3点について断面図で示している。しかし断面図は写真をもとに筆者の推測で描かれたもので、寸法も不明であり、門やフェンスなどの境界が高いか低いかの評価基準に関する記述は見られない。次に公園と学校のグラウンドが一体化している例として成徳小学校のグラウンドの1日の使われ方を調査している。グラウンドを遊具やビオトープ・砂場などを含まない場所と定義し、午前6時から午後5時まで1時間おきに、人の動きを観察している。正課中は休み時間を調査対象外とし、授業中のグラウンドを調査をしているのが特徴である。分析として、行政管理上の土地所有の境界と、物理的な境界の2種類が、境界をつくる要素として分類しているが、心理的な境界についても関心があるように思えた。

まとめでは、境界を人間に意識させるものとして位置づけ、利用者の属性や目的によっても決まると述べている。

この研究では、フェンスや校門など、物理的に遮断される境界の果たす役割と、物理的・心理的要素が人間に境界を意識させる機能について、論じられている。より綿密な調査が行われれば、もっと説得力のあるものになったであろう。また、学校を利用する子供が意識する境界についても研究の余地があり、奥が深くやりがいのあるテーマであると言える。
(評者/伊藤昭裕)

<CLOSE><TOP PAGE>