小論文講評
対象論文「都心居住者の生活環境から見た都市空間に関する研究」
発表者 濱田徹
講評者 1三笠友洋 2上田昌弘


○どのような研究か
本研究は、従来の都市に対する評価が人口密度や施設の数などに偏っておりそこに住まう人間の生活の質に対する視点が欠けているという問題意識から、都市居住者の職業や性別など様々な属性が生活行為が行われる場所やその地域的広がりを規定するという仮説に基づき、ヒアリング調査から都市居住者の一日の生活の軌跡と属性や交流関係を照らし合わせる事でそれらの関係性を検証し、都市居住者の生活実態を明らかにしようとしたものである。

○何が得られたか
居住者の生活行為が行われる場所やその地域的広がりに影響を与える要素として以下のものが明らかになった。
・誰と何人で行動するか
・年齢、職業
・職場と住宅の関係
・交流関係
 しかし、明らかになった生活実態からみて都市空間はどのように問題があるのかというような視点が見られなかったのは残念であり、それは今後の課題といえるだろう。

○どのような意義があるか
インフラや情報伝達媒体の変化、災害などによってめまぐるしく変化する都市環境の中で生活する居住者の生活実態とそれに影響を与えている要素を明らかにする事は、都市が抱えている問題を明らかにし改善していく上で重要なことであり、本研究ではその基礎的な知見が得られている。
以上の理由により本研究は生活環境計画の分野において意義がある。

○感想
本研究には得られたデータから考察にいたる筆者の論理展開の部分に、筆者が参考にした東京大学高橋研究室による研究の影響が強く見られた。第三章のまとめの部分に書かれているような疑問にもう一歩踏み込むことができれば、より進んだオリジナルな発見が得られたのではないだろうか。
(評者/三笠友洋)



■研究背景・目的について
都市空間を評価する上で、物理的観点だけでなく都市居住者の生活も取り込んだ新たな観点を提案したいという主張が研究背景にあり、本研究がその基礎調査として位置付けられていることは理解できる。
しかし「現代の都市においてどのような人間がどのようなもの(都市のハードとソフト)を使って生活しているのかを明らかにする」とある研究目的が本人の主張にどのように貢献できるのかハッキリと示されておらず、実際に研究で導き出された結果と乖離しているように感じた。
もう少し相応しい研究目的の表現の仕方があったのではないだろうか。

■研究方法について
ヒアリング対象者の選定にもう少し配慮して欲しかった。今回は属性がなるべく同じにならないように対象者が選定され、確かにそうすることによって明らかにされる部分もあるのだろうが、似通った属性を持つ対象者を比較することによって初めて明らかになる部分も存在すると思う。(例えば職業以外の全ての属性が似通った対象者を比較すれば、職業という属性が人に与える影響をより詳細に分析できるのではないだろうか。)ある一つ属性が人に与える影響を詳細に分析することも、研究方法の選択肢の一つになり得るのではないだろうか。

■分析・考察について
本研究で導き出された考察とは、

・都市居住者の行動範囲は、主に職住の関係性と人間関係によって決定される
・都市空間の中には、人の属性によって利用のしやすさが変化する空間が存在する
・生活は人間関係をきっかけにして展開する

であると理解した。
これは人の属性・人間関係とその行動範囲との関係性について述べたものであるが、あまりに汎用性のある考察であるため、都市空間と都市居住者の生活との関係性に迫り切れていないように感じた。(例えば、考察と同様のことは都市居住者以外にも言えるのではないだろうか。)
研究目的で述べられているように、もっと都市ならではのハードやソフト(充実した道路網・交通機関、多種多様な建築物・サービスなど)に注目し、それらと都市居住者の生活との関係性に迫ることが出来たならば、本人の主張に貢献できる考察を導き出せたのではないかと思う。

■感想
まず、既に述べたことではあるが、研究目的が本人の主張にどう貢献出来るのかハッキリと示されておらず、それが本研究の内容を分かり難くさせていると思う。
また、言葉の問題として、「生活の展開」と「人の属性」は本研究におけるキーワードとも言えるものだと思うが、それぞれハッキリとした定義が与えられておらず、このことがこの小論文の論点を分かり難くさせていると思う。

正直、この小論文を講評することは非常に困難であった。なぜなら、研究背景に「都市居住者の生活も取り込んだ都市空間を評価する新たな観点を提案」という私の知識と経験では到底語ることの出来ない課題があったからである。出来れば本研究がその課題の解決の一助となり得るようなアドバイスをしたかったのだが、残念ながらどうにもならなかった。
都市居住者の生活を分析することは様々な問題がつきまとう。どのような時間単位で分析するのか、何をもって生活の典型とするのか、そもそも生活の定義とは何なのか、、、。しかし、本人の主張は十分理解できるものであり、これらの問題を解決した上で新たな都市空間を評価する観点が提案できれば、それは画期的なものになるだろう。研究の今後の発展に期待したい。

最後に、「都市空間の中には、人の属性によって利用のしやすさが変化する空間が存在する」という考察には感銘を受けた。確かによく考えれば当然のことではあるのだが、私の中にそのような認識が欠如していることに気付かされ、参考になった。また、「それならば空間の親しみやすさが変化する要因とは何だろうか? 」という疑問も生じた。
(評者/上田昌弘)

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