小論文講評
対象論文「旧魚崎町地区におけるミニ開発によって形成された袋小路の研究」
発表者 竹之内信哉
講評者 1松本健二 2文英岩


本研究は,居住環境の改善を目的としたものである.日頃の生活の中で身近に見かけていたミニ開発によって形成された袋小路に関心を持ち,これまで否定的に思われがちであった袋小路に対し、その有用性を示そうとする研究である.

調査方法としては,10の袋小路の事例を対象にして、現状の使われ方を図面に書き込むフィールドワークを行い,それを元に分析を行っている.ここでは袋小路を形成する物的空間構成要素として,
・ 住戸配置
・ 住宅と街路の境界を形成している壁・門・塀
・ 駐車スペース
が挙げられ、それらの物的空間構成要素が居住者の植栽行為を誘発し、またあふれ出しを許しているのかを調査し,袋小路を形成する個々のそれらの要素に対し考察を与えることで,袋小路が居住者によって共有化されやすい空間であり、また共有化される事で良好な住環境が形成される事をしめそうとしている.ただ袋小路周辺の環境だけでなく,小路の利用実態(オープンスペースとしてどのように活用され,住民に共有されているのか)がわかるとより住民による共有空間として現状を伝えることができたのではないか.もう少しそこで暮らしている住人の生活に目を向けるとよかったように思う.

本研究は,ミニ開発によって計画された袋小路が住環境をより良好な環境へと導く仕組みを備えており、従来否定的に思われがちな袋小路のミニ開発に対して、その有用性を示せていると考えられる。その点で生活環境計画の分野で意義があると考えられる。
(評者/松本健二)


本研究では阪神間で、細い一方通行の15〜20mの行き止まりの「袋小路」の特徴とその雰囲気に影響を与える因子について、調査、分析した。
論文の構成として、本研究を始めたきっかけと調査の概要を紹介した後、違うタイプの10個の事例を紹介し、最後にそれについての考察とまとめを書いた。
著者は「袋小路」に影響を与える要因として周囲建物の配慮、境界のデザイン、駐車スペースなどを挙げた。つまり住民達の路地に対する配慮が重要だと。そして、現在の生活で欠かせない駐車スペースがその雰囲気を大きく左右する。著者の「駐車場も外部空間の一つの要素としてデザインすべきである」と言う点で共感した。著者はいくつかの提案をしたが、ケースによってその可能性はまだ議論が必要だと思う。
全体的に見て、おもしろい研究だと思う。「袋小路」というセミパブリックの空間がそこに住んでいる住民だけの空間のようで、他の人は入りづらくなっていることから、防犯性が高まり、コミュニティーが形成しやすさなどの利点がある。身近にある、「袋小路」で演出した、集合住宅のような、限られた狭い空間に着目したのが良かったと思う。
ところが、本研究では著者自分の外から見た主観的感想を主として、そこに住んでいる住民はどのように感じ取っているかはあんまり振れていない感じがした。もう少し住民にヒアリング調査をして、住民たちの感想とお隣とのつきあい方なども添えたらいいかと思う。そして、本研究では調査対象となった「袋小路」だけに着目して、「袋小路」の外の環境については紹介が少なかった。個人的にその周りの環境がどうか、例えばどれぐらいの幅の道路に面しているかなどがもうちょっと詳しく知りたかった。
(評者/文瑛岩)

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