コラム

新型コロナウイルスと企業のリーダーシップ

2020年3月5日(木)

安倍晋三首相は2月27日、政府の新型コロナウイルス感染症対策本部会合で、「週明けの3月2日から春休みまで、全国の公立小中学校、高校を臨時休校にするよう要請する」と表明しました。感染発覚後、どちらかというと対応が「手ぬるい」と言われていた政府としては思い切った措置と言えます。

ところが、安倍首相の「学校一斉閉鎖」宣言(お願い)は「パフォーマンス」「プロセスや現場無視」と評判が悪いようです。いきなり休校にすると学校や家庭が対応できないというのが批判の主な理由ですが、首相がこのような宣言をしたことは良かったと思います。「手ぬるい」と批判され続け、いざ行動に移すと「独裁的」と言われるのは、国のトップへの常套的な批判でしょう。ただ、一貫した論理で政府を批判している人ばかりではありません。

首相の発言で考えさせられるのは「トップしか使えないリーダーシップ」と「日本の民主主義」についてです。

まず、トップしか使えないリーダーシップについて。感染が広がるにつれて、「このまま学校を開けていたらヤバイことになる」と思っていた人は少なくなかったはずです。しかし、自治体の首長主導で学校閉鎖したら、袋叩きになるのは見えていました。首相が引鉄を引かなければ、「国の方針が分からない」と首長は動くに動けなかったでしょう。例外は北海道のようにアウトブレイクが起きた地域だけです。

そこに首相宣言が出たから、リーダーシップが取れず横並びだった人達がガラガラと動き出しました。「首相は現場の混乱を考えてない」という批判があるが、それは首相の仕事ではありません。そんなことしたら、何も大きな決断ができない。現場のことを考えるのは役所、学校、家庭、職場の役割です。苦労はあってもそれが仕事だから。

企業経営者のリーダーシップも同じです。ある一部上場企業の社長に聞かれたことがあります。「尾崎さん、経営者と営業部長の最も大きな違いは何だと思いますか?」彼の答えは次のようなものでした。
「トップの仕事は上空を旋回して爆弾を落とす場所を探すことです。」
「営業部長の仕事は、戦場を這いながら兵站を拡大することです。しかし、トップがそういう目線で動いてはいけません。」
これぞトップしか使えないリーダーシップでしょう。

次に日本の民主主義について。首相発言後に面白いと思ったのは、普段霞ヶ関にあまり文句を言わない自治体があれこれ自己主張したことです。例えば、感染者が最も多い北海道の鈴木直道知事は2月28日に「緊急事態宣言」を出して外出自粛要請をしました。これに対して、石川県金沢市の山野之義市長は28日「周知や議論の期間があまりにもなく、市民に責任を持って説明できないので休校の判断はできない」と述べています。状況に合わせて両者は対照的です。

北海道のように「ウチは国より厳しくする」という自治体から、「閉鎖するが準備期間は自分で決める」「ウチには満員電車などないから休校しない」という自治体、金沢市のように「そもそも不要」という自治体など様々。日本の首相には独裁的に命令する力はなく、自治体が各々考えるというあるべき姿です。中央政府に絶対服従して地方政府に自由な発言が許されない中国と違い、日本の民主主義は健全です。

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https://www3.nhk.or.jp/news/html/20200229/k10012307401000.html

  • 尾崎 弘之
    (プログラム運営責任者)

    神戸大学科学技術イノベーション研究科教授、経営学研究科教授、プログラム運営責任者