コラム

これからの「人新世」を生き抜く人類にとって、イノベーションは宿命である!?(下)

2020年4月9日(木)

「人新世」の21世紀はパラダイムシフトの世紀

世界各地で延々と続いている激烈な山火事、毎年のように襲って来る猛暑や台風・豪雨などの自然災害、終わりの見えないパンデミックとの戦い…。私たちは既に、これまでの異常が常態へと変わっていく世界、ニューノーマルの世界への転換を体感し始めている。

そんな次々と起こる想定外の事象と共存・共生するには、「異常が当たり前の世界」をしっかりとイメージし、「何度も壊れることが前提」「今までできたことができないことが前提」の社会に適合したルールや制度を整備し、様々なテクノロジーを駆使して社会や経済を運営していかなければならない。

昨年度のイノベーションリーダー育成プログラムの講座では、災害に何度も見舞われる事を前提にした自立型信号機のアイディアを議論した。そこには、いかに壊れない強固なものを造るかではなく、何度かダメージを受けてもある程度復元可能なものを造る、というイノベーティブな発想の転換があった。

新型コロナウイルス禍で現在必要に迫られている「三つの”密“を可能な限り避ける」という生活のあり方も、それが当然のように半永久的に続くとすれば、ヒトとの物理的接触が介在しない、オンライン教室での集合授業、全ての製造ロボットを遠隔操作する無人工場、手渡しロボットによる無人配送、AI搭載インテリジェント・セルフレジ等々…こういう端緒についたばかりの仕組みが、早々にデファクトスタンダードとして日常化するだろう。

「人新世」では、教育・生産・流通・消費などあらゆる社会経済システムにおいてパラダイムシフトが加速するだろう。そこで不可欠なのは、まさに新しい視座からのイノベーションとそれを推進するリーダーシップである。

個別企業のDX(デジタル・トランスフォーメイション)も、ビジネスモデル・チェンジも、業界のゲーム・チェンジも、そのベクトルは「異常が当たり前の世界(ニューノーマル)」のあり様と行く末を見据えた向きでなければ無意味である。

国連合意のSDGsや温室効果ガスに関するパリ合意も、2030年の期限まではあと十年しかない。これからの十年、企業にとっても社会にとっても、パラダイムシフトの真の姿を予見し発想の転換ができるイノベーション・リーダーを、いかに見出し、育て、その活躍の土壌を整えるかが、この21世紀以降の人類の明暗を分ける鍵になると言っても決して過言ではないだろう。

「人新世」とは:
https://ja.wikipedia.org/wiki/人新世

これからの「人新世」を生き抜く人類にとって、イノベーションは宿命である!?(上) http://www.lab.kobe-u.ac.jp/stin-innovation-leader/column/200406.html

  • 宮崎 昭彦

    オフィス・インディペンデント代表、 元A.T.カーニー、モニターグループ