コラム

「頑固な相手の意見」を変える方法

2020年4月14日(火)

対立する意見を持った人間に、その考えを覆させるのは至難の業です。自分が信じる意見を支持する情報ばかりに注目し、反証する情報が心に入ってこないからです。客観的事実をもとに論破しようとしても、よりかたくなに自分の意見を信じるようになります。この傾向は心理学用語で「確証バイアス」と呼ばれるものです。

イリノイ大学アーバナシャンペーン校のザカリー・ホーン博士とカリフォルニア大学ロサンゼルス校の研究チームは、 頑固な意見をどうすれば変えさせることができるかの実験を行いました。(*1)

アメリカでは、乳幼児にMMR ワクチン(麻疹・おたふくかぜ・風疹の三種混合)をうつと大きな副作用があるという俗説が信じられてきました。その結果、予防接種率の低下と麻疹の再発を招き、2014年には、644件と前年の3倍の麻疹が報告されました。

この俗説は、科学的な根拠が認められていないのですが、副作用を信じる親はかたくなにこれを信じ、子どもにMMR ワクチンをうたせようとはしません。医者がいくら客観的なデータを示して安全だとすすめても、親たちはますますかたくなになるだけでした。

そこで研究チームは、医師から両親に「MMR ワクチンが大きな副作用を起こすことはない」と説得することをやめ、別の方法を試してみることにしました。

それは 「子どもを命の危険にさらさない」という、医師と親の共通の目的を強調したものでした。そして「MMR ワクチンは、麻疹など死に至るかもしれない病気を予防する」というプラスの事実だけを強調することにしたのです。

その結果、多くの親の態度が変わりました。MMR ワクチンの接種に同意する親が明らかに増えたのです。

つまり、相手の意見を変えようと思うなら、その人がもともと持っている思い込みを変えさせようとするのではなく、共通して目標にできる別の考えを植えつけた方が早いということです。この方法は、ビジネス、政治、外交などの分野においても応用できます。

(*1) 引用した研究:
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/26240325

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  • 川上 徹也

    コピーライター、湘南ストーリーブランディング研究所代表