コラム

ポストコロナのイノベーション⑯:  Amazon Goや大手コンビニ以外でAI無人店舗を浸透させる

2020年9月10日(木)

社会課題1-1. 人同士の接触が前提だった場所の変革とは?(1. 人同士の接触を減らしながらビジネスを成立させること)
社会課題2. リアルな現場における人手不足を賄うこと
先端技術のショールーム「Amazon Go」

最近、「無人コンビニ」を街で見かけるようになりました。その先駆けは2016年12月、アマゾンが米シアトル本社の従業員向けにオープンした「Amazon Go」(アマゾン・ゴー)です。

アマゾン・ゴーが作られた当初の目的は、センサー、カメラ、ロボット、AI、IoTなど先端技術のショールームを作ることでしたが、無人コンビニは人手不足、人件費高騰という社会課題の解決につながります。実用化されればレジ打ちの仕事などは不要になります。また、無人コンビニは、お客にとってのメリットも大きい。レジ行列の待ち時間がなくなり、手に取った商品は自動決済されるので、財布からお金やカードを取り出す手間もなくなります。

実験段階を越えられない無人コンビニ

当然ながら米国企業だけでなく、小売の人手不足が顕著な日本企業も興味を示しています。感染症対策で店員とお客の接触が課題となっている時節にもマッチしています。

ローソンが2018年10月千葉・幕張で開催されたCEATEC(IT技術とエレクトロニクスの国際展示会)で無人コンビニの実験店舗を出展した時は、「何故コンビニが家電見本市に?」と話題になりました。また、2019年8月深夜のみ無人決済できる実験店舗を横浜で開設しています。ただ、タバコやアルコール類などは無人決済の対象外です。(*1)

JR東日本はベンチャー企業のサインポストと協力して、2017年11月埼玉の大宮駅で無人店舗の実証試験を開始し、その後東京の赤羽駅にも実験場所を広げました。(*2)また、2020年3月オープンした新駅・高輪ゲートウェイ駅では、「Touch To Go」という常設の無人店舗を開設しています。(*3)

セブン-イレブンも実験店舗を持っていますが、現状はどの企業も「実験」の域を出ていません。先行して大規模な出店計画を打ち出したアマゾン・ゴーでさえ、全米4都市(シアトル、サンフランシスコ、シカゴ、ニューヨーク)で26店舗を運営しているに過ぎません。(2020年6月現在)(*4)

標準仕様が確立されていない無人店舗

一口に「無人コンビニ」と言っても、カメラやセンサーの組み合わせ、システムの構築方法は様々で、標準的な仕様について各社模索中です。技術的な課題は結構あり、例えば、お客が手に取った商品の購入を止めた場合、指定の棚に戻さなければ購入記録が残ることが多いようです。さらに、光の具合やカメラの角度によっては、購入したか否かを正確に認識できません。

また、買い物客の「慣れ」の問題もあります。商品を手に取って、スキャンせず店を出ることが今でも技術的に可能ですが、無人コンビニに慣れていないお客は何を買ったのか不安になります。そこで、出口ゲートのディスプレーで購入商品を確認すると結局行列ができ、せっかくの無人化のメリットが減殺されます。

このような問題を解決するには、カメラにお金をかけるなど高コストになるため、資金豊富な企業しか運営できません。アマゾン・ゴーの場合、一店舗の開設に2〜3億円かかると言われています。しかし、スーパー、ドラッグストア、デパート、ディスカウントストアなど、資金力で大手コンビニに劣る企業でも無人店舗ニーズは幅広いのが実情です。

大手コンビニに資金力が劣る店舗で無人化を可能にする(Secure AI Store Lab)

出典:Secure AI Store Lab HP

アマゾンや大手コンビニ以外でも無人店舗を運営することができないか?

この課題の解決を目指しているのが、「「ポストコロナ」のイノベーション⑦: オフィスや工場の概念を刷新する」で紹介した株式会社セキュア(*5)です。同社は、本来セキュリティで使っている監視カメラと画像解析技術を応用して、2020年7月「Secure AI Store Lab」(*6)という無人店舗を新宿住友ビルにオープンしました。まず、化粧品情報サイト「アット・コスメ」(*7)の株式会社アイスタイルグループと協力して化粧品の実験店舗に取り組んでいます。

化粧品店舗にはコンビニと異なる運営が必要です。化粧品はコンビニと比較して購買率が低く(来店しても何も買わない人が多い)、客単価が高く、接客が必要です。コンビニが接客して商品を勧めることはまずありませんが、化粧品はある程度の接客をしないと売れません。そこで、「無人店舗における接客とは何か」を考える必要があります。AI Store Labでは、手に取った商品の説明が即座にディスプレイ表示される、お客の質問にチャットボットが返答するなどの配慮がされています。

無人店舗は、コンビニで焦点が当たっている人件費や待ち時間の削減だけでなく、業態別の特性に配慮した店舗作りをしないと浸透しないでしょう。レジだけでなく、接客、バックヤードなど店舗の構成要素は数多い。この場合、AI Store Labのような実験店舗が情報収集の役割を果たします。

自動化エラー許容度とコスト削減のトータル管理

今後、様々な業態で「無人店舗が実用化されるには何が必要か」、セキュアの谷口辰成社長に聞きました。彼の回答は「自動化のエラー許容度とコスト削減のトータル管理だと思います」です。これこそが、資金力が劣る企業が無人店舗を運営するヒントです。

無人コンビニが先端技術を売りにすると、購買チェックなどシステムの誤作動をいかにゼロに近づけるかを重視してしまいます。ところが、小売現場の考え方は違います。例えば、ドラッグストアは万引き対策をしないと売上が1%減ると言われています。そこで、無人店舗の監視カメラによって万引きがゼロに近付き、レジの人件費を削減できるなら、システムエラーが多少あっても企業は許容できるはずです。

トータル管理よりも「エラーゼロを目指さなければならない」ことを企業が優先すれば、無人店舗を浸透させることが困難になります。

「ポストコロナ」の社会課題:
http://www.lab.kobe-u.ac.jp/stin-innovation-leader/column/200430.html

1. 人同士の接触を減らしながらビジネスを成立させること
1-1. 人同士の接触が前提だった場所の変革とは?
1-2. 今までと違う「接触方法」とは?
1-3. オフイス、飲食店、スーパー、スポーツ、エンタメ以外に課題を抱える場所とは?

2. リアルな現場における人手不足を賄うこと
2-1. 医療、介護、工場、物流、店舗以外に問題が起きている現場とは?
2-2. 専門家、管理者、単純労働者など不足する人材の質に合わせた対応とは?
2-3. IT化やロボット活用以外に考えられる解決方法とは?

3. ITの新たな活用方法を提示すること
3-1. テレワークを実施するうえで起きる新たな課題とは?
3-2. DX(デジタル・トランスフォーメーション)の新しい姿とは?
3-3. ITが解決するべき今まで見えなかった課題とは?

4. ビジネスの新たなパラダイムを作ること
4-1. 新たな生活、仕事の目的とは?
4-2. 従来と異なるコミュニケーションとは?
4-3. 人々が持つべき新たなマインドセットとは?
4-4. 新しい家庭、病院、オフィス、店舗、物流、工場etc.の形とは?


(*1)ローソン(2019年8月24日)「【News】スマート店舗(深夜省人化)実験を横浜で開始!」:

(*2)JR東日本(2018年10月2日)「AI を活用した無人決済店舗の実証実験第二弾を赤羽駅で実施」:

(*3)食品産業新聞社(2020年3月22日)「高輪ゲートウェイ駅にAI無人決済コンビニ、商品はスキャン不要で自分のバッグへ/JR東日本「TOUCH TO GO」(タッチトゥゴー)」:

(*4)List of Amazon Go Locations on Amazon.com:

(*5)株式会社セキュアHP:

(*6)「Secure AI Store Lab」:

(*7)アット・コスメ:
  • 尾崎 弘之
    (プログラム運営責任者)

    神戸大学科学技術イノベーション研究科教授、経営学研究科教授、プログラム運営責任者