コラム

ポストコロナのイノベーション26: ソフトとハードの組み合わせで都心のランチ難民を救済する

2021年5月6日(木)

ポストコロナの社会課題2. リアルな現場における人手不足を賄うこと
ポストコロナの社会課題2-1. 医療、介護、工場、物流、店舗以外に問題が起きている現場とは?
先進国共通の現象:不振の外食・中食と急成長のフードデリバリー

コロナ禍の外食・中食業界の不振は、日本だけでなく国際的に共通の現象です。CRESTによると、2020年、外食・中食市場の規模は世界で約124兆円も縮小しました。(*1) 調査対象の先進13ヶ国すべてで市場縮小しましたが、国よって割合がマチマチです。減少率が大きかったのは食通国として名高いイタリア、スペイン、フランスで、各々前年比40%前後も減っています。逆に減少が少なかったのは韓国で、マイナス9%にとどまっています。日本はマイナス18%で、先進国の中位にランクされます。また、米国と中国は日本と韓国の間に位置し、欧州よりましな状況です。

(出典:エヌピーディー・ジャパン、最新外食・中食市場レポート)

一方、外食・中食の穴を埋めるようにフードデリバリーサービスは急成長しました。国民の胃袋総量は変わっていない証拠です。客数ベースで見ると、昨年世界で47%も増えました。(*1) 調査対象の13ヶ国総てで市場成長していますが、米国が伸び率断然トップで、何と2.2倍(デジタル注文)です。カナダやロシアの成長も大きいが、食通国のイタリア、スペイン、フランスは大して伸びていないことが興味深いです。米国人にはピザや中華などのデリバリー文化が浸透しているが、味にうるさい国では、美味しくないデリバリーより家での料理が好まれると考えられます。一方、日本の伸びも上位クラスで、プラス68%でした。日本のライフスタイルは米国に近いことが再認識できます。

(出典:エヌピーディー・ジャパン、最新外食・中食市場レポート)

コロナ禍前、日本のフードデリバリーは、ピザ、パスタ、寿司が上位御三家でした。(*2) デリバリーを行っているフードサービスは一部でしたが、コロナ禍によって、店舗が多様になりました。高級イタリアン・フレンチ、ステーキ、割烹など、従来はデリバリーと縁がなかった店舗がこぞって参入し、消費者にとって「味気なかった」料理の質が上がったのは事実です。また、外食業界にとってデリバリーは事業リスク分散の意味もあります。

フードデリバリー成長のための課題

成長しているデリバリーに対して消費者が感じる主な懸念・不便さとして下記の項目が指摘されています。(*2)
① 配達料金が高い
② 配達エリアが限られる
③ 料理が届くまでの時間が長い
④ 商品受け取り時、家にいる必要がある
⑤ 配達員が信頼できない
⑥ 品質や安全面(異物混入など)への不安がある
逆に言えば、これらの課題を解決すれば、デリバリーが持続的な成長市場になると思われます。

(出典:消費者庁「フードデリバリーの動向整理」(2020年12月17日))

コロナ禍も続くと思われる都心の「ランチ難民」

コロナ禍はいつ沈静化するか分からなくなりました。しかし、沈静化すればデリバリーサービスの成長も鈍ると思われます。特に住宅地の需要は減少する可能性が高いが、人出が戻ってデリバリー需要が高まる地域もあります。それは都心のオフィス街です。東京丸の内や大阪梅田などは高層ビルが多いため平日ランチタイムの人口密度が高く、ランチの選択肢が極端に少ない「ランチ難民」が続出します。

フードロッカーを使ったシステムでランチ難民を救済する(ミノージャパン株式会社)

デリバリーサービスが抱える上記の課題をソフトウエアとハードウエアの組み合わせで解決し、ランチ難民救済を目指しているのがミノージャパン株式会社(以下ミノー)です。同社はミノージャパンと称しながら外資系でなく日本のスタートアップです。ミノーのユニークさは「Minnow Pod」という「フードロッカー」をビジネスの基点にしていることです。

Minnow Podは自販機の4分の1程度のスペースに設置可能な機器で、料理を別個に収納する20のボックスに分かれています。ボックス内は熱い食事、冷たい食事ともに温度維持ができる魔法瓶構造です。ミノーのシステムはユーザーのランチ注文をスマホで受付け、店舗に調理依頼します。その後、専門の配送員が各店舗から料理を受け取り、ビルに設置されたロッカーに料理を配ります。注文したユーザーは指定時間にロッカーへ行き、スマホ通信でカギを解除して料理を取り出します。決済はシステムで完了するので、配達員を待つこともお金のやり取りも不要です。

(出典:ミノージャパン株式会社HP)

(出典:ミノージャパン株式会社HP)

デリバリーの課題を解決する具体策

オフィス街でのランチデリバリー自体は珍しくありませんが、同社システムはデリバリーが抱える課題を下記の方法で解決します。

① 配達料金を下げる: UBER Eatsは40%程度の配達料を取っているが、ミノーは注文の受発注をまとめて効率化する方法で配達料を下げることができる。
② 配達エリアを広げる: オフィス街のデリバリーは同じビルの店舗に限られることが多いが、より広範囲の店に注文できる。
③ ユーザーは配達をイライラ待つ必要がない: フードロッカーに届けられる時間が予め分かるので、ユーザーは無駄に待たなくて良い。
④ 配達員との対面が不要: オフィスではアシスタントが同じ部署の配達をまとめて受け取ることが多いが、そのような対面接触や手間を省ける。
⑤ 配達員のドタキャンやトラブルを避ける: ギグワーカーの配達員が仕事をドタキャンする、配達時間が遅れるといったトラブルを計画配送と専門配達員の起用によって防ぐ。
⑥ 食中毒リスクを下げる: 指定のピックアップ時間を過ぎても注文した人が取りに来ない場合、その後はボックスのロックが解除できず料理を取り出せなくなる。
⑦ (店舗の課題)バラバラと注文が来る煩雑さを回避する: ランチタイム直前に注文が集中すると店舗の負担が高くなるが、システムを通じて繁忙時間帯を避けた計画注文を行う。


ミノー社長の池田保さんは長年コンサルタントをする過程で、このビジネスを着想しました。フードロッカーを生産するメーカーが国内に見つからないと、米国に出向いて交渉するなどの苦労を重ねました。今後、店舗の負担を低減させながらランチ難民のQOLを改善する総合的なソリューションが期待されます。

(出典:ミノージャパン株式会社HP)

「ポストコロナ」の社会課題:
http://www.lab.kobe-u.ac.jp/stin-innovation-leader/column/200430.html

1. 人同士の接触を減らしながらビジネスを成立させること
1-1. 人同士の接触が前提だった場所の変革とは?
1-2. 今までと違う「接触方法」とは?
1-3. オフイス、飲食店、スーパー、スポーツ、エンタメ以外に課題を抱える場所とは?

2. リアルな現場における人手不足を賄うこと
2-1. 医療、介護、工場、物流、店舗以外に問題が起きている現場とは?
2-2. 専門家、管理者、単純労働者など不足する人材の質に合わせた対応とは?
2-3. IT化やロボット活用以外に考えられる解決方法とは?

3. ITの新たな活用方法を提示すること
3-1. テレワークを実施するうえで起きる新たな課題とは?
3-2. DX(デジタル・トランスフォーメーション)の新しい姿とは?
3-3. ITが解決するべき今まで見えなかった課題とは?

4. ビジネスの新たなパラダイムを作ること
4-1. 新たな生活、仕事の目的とは?
4-2. 従来と異なるコミュニケーションとは?
4-3. 人々が持つべき新たなマインドセットとは?
4-4. 新しい家庭、病院、オフィス、店舗、物流、工場etc.の形とは?


(*1)エヌピーディー・ジャパン、最新外食・中食市場レポート:

(*2)消費者庁「フードデリバリーの動向整理」(2020年12月17日):

(*3)ミノージャパン株式会社HP:

  • 尾崎 弘之
    (プログラム運営責任者)

    神戸大学科学技術イノベーション研究科教授、経営学研究科教授、プログラム運営責任者