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流下液膜蒸発熱伝達の促進

目的

 近年,地球温暖化対策の一環として,フロン系冷媒の使用量削減が進められている.流下液膜式熱交換器は,満液式熱交換器と比較して作動に要する冷媒充填量を削減できることから,セントラル空調システムにおける冷水供給などの大型チラーの蒸発器として期待されている.流下液膜式熱交換器は,水平に設置された伝熱管群の上部より冷媒液をかけ流し,管表面に液膜を形成することで,液膜表面からの蒸発や液膜内での核沸騰により熱輸送を行う.伝熱管が常に液に浸される満液式とは異なり,有効な伝熱面は液膜が形成されている部分であることから,部分的なドライアウトは熱通過率を大幅に悪化させる.また,液膜内で核沸騰が発生する場合,蒸気への液滴飛散が多くなれば,液膜流量の低減,圧縮機への流入によって性能低下をもたらす.したがって,管表面での液分配および液膜の保持が重要であり,使用される伝熱管への要求事項となっている.さらに,液膜流量が高く,液膜が厚い場合には,核沸騰熱伝達が重要となるため,沸騰核密度の増大も伝熱促進に求められている.
 本研究では,流下液膜式熱交換器での使用に適した伝熱促進管の開発とその熱伝達特性の解明を目的とし,実験による評価を行っている.

 

研究内容

 

 沸騰核密度の増大と液膜保持の要求を両立できる伝熱促進面として,溶射加工で製作した表面構造を提案し,それを活用した伝熱管の評価を行っている.溶射加工とは,高温で溶融させた材料を吹き付けることで被膜を形成する表面改質技術である.断面構造からわかるように,溶けた金属(銅)が空隙を作りながら付着している.これまでの研究から,この微細な凹凸および多孔質構造が液の拡散や核沸騰を促進し,平滑な円管と比較して熱伝達率が向上することが明らかとされた.右の動画が加熱時の沸騰様相である.液を均等に供給するためのダミー管の直下に試験伝熱管が配置され,カートリッジヒータで加熱されている.同じ液膜流量,熱流束条件において,平滑面(左側)では液膜が消失するドライアウトが部分的に確認されるが,溶射面(右側)では全面に液膜が保持され,核沸騰が起こっていることが確認できる.

 

発表論文

T. Ubara, K. Sugimoto, H. Asano
Film thickness and heat transfer characteristics of R1233zd(E) falling film with nucleate boiling on an inclined plate, International Journal of Heat and Mass Transfer 198, 123423 (2022). https://doi.org/10.1016/j.ijheatmasstransfer.2022.123423  

T. Ubara, H. Asano, K. Sugimoto
Falling Film Evaporation and Pool Boiling Heat Transfer of R1233zd(E) on Thermal Spray Coated Tube, Applied Thermal Engineering, 117329 (2021). https://doi.org/10.1016/j.applthermaleng.2021.117329

乳原 励, 澤渡 一哉, 杉本 勝美, 浅野 等
溶射被膜を有するローフィン管のR 134aおよびR 1233zd(E)における水平管外流 下液膜蒸発熱伝達, 日本冷凍空調学会論文集 38(2) (2021), pp.133-143. https://doi.org/10.11322/tjsrae.21-09NK_EM

T. Ubara, H. Asano, K. Sugimoto
Heat transfer enhancement of falling film evaporation on a horizontal tube by thermal spray coating, Applied Sciences, 10(5), 1632 (2020). https://doi.org/10.3390/app10051632


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