研究背景


宇宙開発や宇宙利用を行うため用いる人工衛星やスペースシャトルなどを「宇宙機」とよびます。地球周辺の宇宙空間は真空ではなく、希薄な電離気体である「宇宙プラズマ」で満たされており、その中を飛翔する宇宙機は宇宙プラズマと の接触により帯電などの悪影響を受けます。時にはこの帯電が原因で宇宙機表面や内部で放電が起こり衛星破損などの事故が起こることもあります。また、宇宙 機の推進力・姿勢制御に用いられるスラスター噴射や、宇宙機に電力を供給するために用いられる太陽電池パネル内で生じる電圧は宇宙機周辺のプラズマ環境に 影響を与えます。これらの影響は、将来の衛星システムの大電力化、高電圧化に伴い、宇宙環境利用や計測において大きな問題となる可能性がありますが、まだ 十分に理解されていません。


宇宙機と宇宙プラズマとの間に発生する様々な相互作用現象は、宇宙機の形状や材 質、そして宇宙機周辺の宇宙プラズマ環境に大きく左右されるため、その影響を簡単な数式で表すことは非常に困難です。また、宇宙実験もその経費や準備期間 を考えると、頻繁には実施できません。そこで、スーパーコンピュータを用いて、再現可能なバーチャルな宇宙環境の中で宇宙機と宇宙プラズマの相互作用現象 に関する大規模な計算機シミュレーションを行い、今後の宇宙環境利用や衛星プロジェクトに役立つ基礎データの取得を目指しています。


我々のグループでは、特に、宇宙プラズマを膨大な数の荷電粒子群として扱うプラズ マ粒子シミュレーションを用いた宇宙環境解析、およびシミュレーションツール開発を行っています。今後、次世代スーパーコンピュータ(京マシン)のような 超並列スカラ型コンピュータが主流となりますが、これに対応できるように、高効率かつ高速な大規模プラズマ粒子シミュレーションの手法開発および並列化に 関する研究も並行して行っています。


長期的には、計算機シミュレーション先行主導型研究・開発の方法論を広めたいと考 えています。このためには、現状よりも数オーダー以上高い分解能を持つ信頼性の高いシミュレーションが必要であり、その解決法の1つとしてマルチスケール シミュレーションという方法が注目を浴びています。自然界のあらゆる現象は、空間、時間スケールが違う様々な要素事象から構成されその相互作用の結果とし て全体が成り立っていますが、従来の一様な空間分解能を用いたシミュレーションではミクロ-マクロ間結合の影響が十分に反映できません。そこで、ミクロ- マクロの両方をカバーできる高分解能なマルチスケールシミュレーションが計算科学の最重要課題の1つとなっています。我々は現在JST/CRESTプロ ジェクトでこのマルチスケールシミュレーションに取り組んでいますが、引き続き、その手法開発、基盤構築を行うとともに、その方法論を様々な研究分野へ応 用していきたいと考えています。



計算機シミュレーション例

衛星表面にプラズマ粒子が飛び込むことにより衛星本体および太陽パネル表面電位が宇宙プラズマ空間に対して電位差をもつ。極域上空の衛星軌道の場合、オー ロラを光らせる電子電流により、数キロボルトまで衛星が帯電することもある。機体表面上の場所によって電位が違う場合、機体表面で放電などにより衛星に悪 影響が出る可能性がある。左図は、小型衛星をモデル化し、プラズマ中での帯電の様子を示したものである。



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