研究内容Research

創薬科学研究室

当研究室では、がん遺伝子産物Rasタンパク質が制御するシグナル伝達系にフォーカスしたがん創薬研究を行っております。
Rasそのものの酵素触媒反応の高速分子動画を作成し、原子レベルで解き明かすことで、医薬品開発の難易度が非常に高いこの分子の機能を攻略し、がん治療薬創出の足掛かりとなる創薬基盤情報を収集します。また、Rasのみならず、Rasの制御下にあるがん化シグナル制御分子の構造的特徴に着目した医薬品開発も目指しています。
このように、Rasを基軸としたがんシグナル伝達を網羅的に阻害する構造ベース創薬が本研究室のミッションになります。

以下1~3が主な研究内容です。

  1. がん遺伝子産物Rasの酵素触媒反応の分子動画撮影と創薬への応用
  2. Ras/MAPKシグナル伝達をターゲットとした新規分子標的がん治療薬の開発研究
  3. メモリアル・スローンケタリング・がんセンター(MSK)との共同研究下での抗体医薬品の開発研究、等

1. がん遺伝子産物Rasの酵素触媒反応の分子動画撮影と創薬への応用

酵素触媒反応の原子スケールでの可視化は、単純な反応式で表記されるものであっても、刻々と変化する酵素(タンパク質)と基質との相互作用を時分割の構造情報として捕捉する必要があるため、極めて難易度が高く可視化の成功例は少ないのが現状です。酵素触媒反応の中には、生命維持や疾患発症などに関与する重要な細胞内シグナル伝達分子が制御するものも多くあります。したがって、この反応の可視化は、生命現象や疾患発症メカニズムをこれまでにない高い精度で解明してその理解を深めるとともに、生命現象の根源を可視化する新たな分子生物学ツールの開発、これまでにない手法による革新的医薬品開発にも繋がる可能性を秘めた学術的・社会的インパクトの高い研究領域と言えます。
当研究室ではがん遺伝子産物Rasの酵素機能に着目し、(1)光制御型基質,(2)光応答性Rasを使用し、SPring-8・X線自由電子レーザー施設SACLAならびNMR分光法を用いた時分割構造解析(高速分子動画撮影)により、原子スケールでのRasの機能制御のメカニズムを解明し、創薬基盤情報を効率的に収集します(図1)。

2. Ras/MAPKシグナル伝達をターゲットとした新規分子標的がん治療薬の開発研究

医薬品開発には莫大な費用と時間がかかるため、アカデミア創薬は一般的に困難と言われています。しかし当研究室では、独自に解明したRasならびにRasの標的分子の構造的特性に着目し、理化学研究所(RIKEN)ならびに高輝度光科学研究センター(JASRI)との共同開発を通じて、インシリコ・生化学・分子生物学・構造生物学的手法を駆使した独自のスクリーニングシステムにより(movie1)、担がんモデル動物において顕著な抗がん作用を有する複数の物質(リード化合物)の同定に成功しています(図2)。これらの物質の作用メカニズムを原子レベルで明らかにすることで、より活性が強く毒性が低い医薬品開発候補品の創出を目指しています。

3. メモリアル・スローンケタリング・がんセンター(MSK)との共同研究下での抗体医薬品の開発研究

3. メモリアル・スローンケタリング・がんセンター(MSK)との共同研究下での抗体医薬品の開発研究を行っています。