建築における音環境の設計というと,これまでに述べたコンサートホールの設計が,まず思い浮かぶかも知れない.しかし,音響的配慮が必要な建築物は,コンサートホールだけではない.住宅でも,オフィスでも,全ての建築物には,それぞれ目的に応じた適切な音環境が実現されなければならない.音環境の設計は,空調などの熱環境や,換気などの空気環境の問題と同じく,快適な環境のためには欠かせないものである.
快適な環境のためには,まず騒音がないことが必要である(騒音とは?→「音のなんでも小事典」:pp.203-206).また,室内音響特性(残響時間,音圧分布)についても,住宅の居室や商店だからといってどうでもよいというものではない.以下では,建物の中で音環境の問題として考えなければならないポイントをあげてみよう.
★騒音のない空間を作る
- 透過損失:壁などによる遮音性能は,「透過損失」と呼ばれる量によって表される.これは,壁によってどれだけ音が減衰するかをデシベルで表示したものである(詳しくは,壁に入るエネルギの,壁を透過するエネルギに対するエネルギの比を,デシベルで表したもの.)
- 透過損失に関する質量則:単層壁(一重壁)による遮音性能は,基本的には壁の重量で決定される.壁が重いほど,周波数が高いほど遮音性能(透過損失)が高く,例えば重量が2倍,あるいは周波数が2倍になると,透過損失は6dB増加する.しかし,これは壁の厚さを2倍にしても透過損失が6dBしか増えないことを意味しており,むしろ2重壁にした方が効果的であることを意味している. (「音のなんでも小事典」:p.21 図1-4参照)
★空間の適切な音響特性
- 残響過多:残響は音楽を聴く場合には必要であるが,長すぎる残響は会話や講演を聴く場合には音声の明瞭度を損なう.駅のコンコースや,学校の講堂や体育館など,一般に吸音力が不足しがちな大空間では,著しい問題となる.特に,非常放送など重要な情報伝達の妨げになる危険性がある.
- 吸音不足と騒音:室内の騒音レベルは,吸音力が少ないほど高くなる.したがって,吸音力が不足すると,残響過多だけでなく騒音レベルが高くなり,音環境が劣悪となりやすい.近年は,店舗などでも固い表面仕上げが多く,吸音不足の室内空間が多い.BGMや空調機,その他の室内発生騒音による室内騒音レベルを低減するには,適当な吸音処理が必要である.