保健師とコミュニティ・エンパワメント
コミュニティ・エンパワメントとは、地域の人々が集団として置かれた状況を批判的に分析し、共通の課題に気づき、その改善に向けて原因となる社会のあり方(人との関係や社会資源、政策など)を変えるために行動を起こしていく過程であり、その結果生み出された、地域の環境が整い、場の力が活性化された状態を含むもの(中山、2006)と定義されています。日々の活動において保健師は、コミュニティ・エンパワメントにつなげるために、健康づくりグループの立ち上げや、地域内のグループ同士をつなぐ支援、他機関との連携など、多様な活動を展開しています。
市町村保健師による地域組織活動の実態と課題に関する研究
私たちは、市町村保健師を対象に、地域組織活動の実態と課題に関する研究を行いました。
その結果の一部を紹介しています。
表1 保健師の地域組織活動の経験 (n=1161) | ||
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n | (%) | |
地域組織活動の経験が十分にあるか | ||
非常にそうである | 22 | 1.9 |
かなりそうである | 125 | 10.8 |
まあそうである | 430 | 37.0 |
あまりそうではない | 378 | 32.6 |
そうではない | 200 | 17.2 |
わからない | 6 | 0.5 |
表2 関わった地域組織活動の種類(複数回答)n=1175 | ||
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種類 | n | (%) |
地域組織活動の経験が十分にあるか | ||
民生児童委員 | 822 | 70.0 |
健康推進員 | 709 | 60.3 |
自治会・町内会 | 672 | 57.2 |
食生活改善推進員 | 604 | 51.4 |
老人会 | 599 | 51.0 |
母子保健推進員 | 349 | 29.7 |
NPO | 217 | 18.5 |
母子愛育班 | 104 | 8.9 |
表3 保健師による地域組織支援上の課題 |
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地域組織活動に関われていない |
若手保健師の力量不足 |
中堅期保健師の負担増加と疲弊 |
地域組織活動への支援方法がわからない |
地域診断から地区活動に発展させられない |
地区活動を展開しづらい活動体制 |
コミュニティ・エンパワメントに向けて地域組織と保健師が協働するための支援モデルの開発
保健活動の場では、業務分担制による地区活動の衰退や地域組織活動の支援技術の不足等により、地域組織活動の支援に課題を抱えています。
そこで、私たちは、コミュニティ・エンパワメントに向けて地域組織と保健師が協働するためのモデルを開発しました。
モデルの構成要素の概念図

モデルのイメージ図

表4 地域組織のコミュニティ・エンパワメントの過程 | |
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段階 | 状態像 |
健康課題への無意識・無活動期 | 地区に潜在的な健康課題が存在するが、住民はそれに気づいておらず、組織的な健康づくり活動がみられない |
健康課題の意識化・明確化期 | 住民により、地域の健康課題の意識化・明確化がされる |
活動の意思決定による組織化、活動計画立案期 | 住民により、健康課題に対する目標および問題解決方法についての意思決定、合意形成がなされ、地区組織として組織化され、活動計画が立案される |
活動開始期 | 地区組織が、健康課題の解決・改善を目的とした活動を、地区で開始する |
主体的な活動期 | 地区組織が、自己決定のもとに企画運営した健康課題の解決・改善を目的とした活動を地区で継続している |
地域づくり期 | 地区組織が、主体的な活動を継続することによって、住民同士の助け合いや他の地区組織・行政・専門職等とのネットワークが地区に広がってきている |
住民組織のコミュニティ・エンパワメント過程の質的評価指標の開発
保健専門職によって、住民組織という集団(コミュニティ)を単位として、住民組織がコミュニティ・エンパワメントする過程を質的に評価する評価指標を開発しました。本評価指標を用いることによって、保健専門職が、支援の必要性と方向性を明確化することが容易になり、支援を改善させ、コミュニティ・エンパワメントを促すことにつながります。
下記に、住民組織のコミュニティ・エンパワメント過程の質的評価指標のファイルと使用の手引きがございますので、住民組織の評価にご活用ください。
健康を支える行政保健師
基礎自治体において住民の健康を支える重要なアクターとして、行政保健師の存在があります。そこで、保健師の役割や専門性などについて整理しつつ、地域コミュニティをエンパワーする保健師の姿勢や技術、地域との協働の在り方などについて、具体的な事例も交えながら論じています。関心のある方は、こちらをぜひご一読ください。