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研究内容

当研究室では、以下のテーマについて研究を行っています。

1) 尿中に出現する尿路上皮癌細胞の細胞学的特徴の解明

2016年に尿細胞診の国際的報告様式であるThe Paris Systemが発刊され,特に高異型度尿路上皮癌細胞の形態学的診断基準が明確化された。しかし,これら診断基準は執筆者らの経験に基づくものも多い。そのため,我々は高異型度尿路上皮癌細胞の形態学的特徴についてデジタルイメージ解析を用いた計測を行い,定量的かつ客観的なデータによる高異型度尿路上皮癌細胞の形態学的特徴について研究を行っている(Cytopathology 2021, 2023)。また,尿路上皮癌細胞と良性異型細胞との鑑別を行うためにvimentinやp53などの抗体を用いた免疫細胞化学的検討も実施している(Cancer medicine 2021)。

2) 糸球体疾患の非侵襲的バイオマーカーとしての尿中ポドサイトの可能性

腎臓の糸球体に存在するポドサイト(たこ足細胞)が障害されることで各種の糸球体疾患が惹起されることが明らかとなっている。そのため,尿中に剥離してきたポドサイトを検出することで糸球体疾患の早期発見や経過観察を行う研究がなされている。しかし,これら研究で用いられている方法では特別な機材や試薬が必要となるため,一般病院の日常検査として実施することは困難であった。そこで我々は,一般病院の日常検査として実施できるポドサイトの検出方法を考案した。具体的には,liquid-based cytologyであるSurePath法で尿細胞診標本を作製し,ポドサイトマーカーを用いた免疫細胞化学(酵素抗体法)を実施することで尿中のポドサイトを簡便に検出できる方法である(Cytopathology 2016)。この方法を用いた検討で,尿中ポドサイトの出現数と糸球体疾患の関連を検討している(Cytopathology 2017, Bio protocol 2018, Acta cytologica 2022)。

3) 体腔液細胞診を用いたPD-L1発現率の算出方法の確立

免疫チェックポイント阻害薬(ICI)の登場により,進行肺癌の治療成績は著明に改善している。ICIを使用するための条件として,腫瘍組織中にPD-L1陽性細胞が1%以上存在することが必要となる。しかし,進行肺癌では組織検体の採取が困難となることも多い。そこで,胸水から細胞診標本を作製し PD-L1陽性細胞の判定を行うことも検討されている。しかし,従来の細胞診標本では癌細胞のみでなく様々な細胞が混在するため正確なPD-L1陽性率の算出が困難であった。そこで我々は,ある手法を用いて最初に胸水中から癌細胞のみを抽出して細胞診標本を作製し,それにPD-L1免疫染色を追加することでPD-L1陽性率を算出する方法を考案した。この方法で,胸水中のPD-L1陽性細胞の比率を算出できることを証明し,組織採取が困難な進行肺癌患者の治療成績向上を目指している。

4) ラオスにおける悪性中皮腫の実態解明

アスベストは建設資材として使用されてきたが,悪性中皮腫の原因であることが判明したため,先進国ではその使用が全面的に禁止されている。しかし,多くの発展途上国では未だ全面禁止に至っておらず,特にラオスは対人口比で世界一のアスベスト輸入国である。そのため、ラオスでは多数の悪性中皮腫患者が存在することは間違いないが,悪性中皮腫の診断には特別な機材や技術が必要となることから同国での診断は困難で,その実態は潜在化している。そこで本研究室では,細胞診標本の細胞をナイロンメッシュでスライドガラスから剥離・分割し,複数のスライドに転写することで悪性中皮腫の診断ができる方法を考案した(Acta cytologica 2021)。現在,上記の方法を用いてラオス健康科学大学とラオスにおける悪性中皮腫の実態調査を行っている。

5) 子宮頸癌検診の受診率向上のための研究

子宮頸癌の発症にはヒトパピローマウイルス(HPV)感染が関わっている。先進国において子宮頸癌の発生率は減少しているが,日本では例外的にその発生率が上昇している。この原因は,HPVワクチンの接種率と検診受診率が他の先進国に比べて低いためである。そこで本研究室では,神戸市などと連携して特に20歳代女性の子宮頸癌検診の受診率を向上させるための研究を行っている(Nurs Health Sci 2023)。